汚された本

 あぁ、今日も借りられなかった。全くいつになったら貸してくれるんだろ。和孝の奴、お兄ちゃんに貸したまま返ってこないなんて・・・、全くいい加減だな。こんな風に僕が居間で嘆いていると、玄関から声が飛び込んできた。姉が帰ってきたのである。

 「絶対、有罪よ。あんな事が許されるなら、この世はお終いよ。そうでしょ?」

 また、トラブルをお持ち帰りしたのか。

 「山元め、私の本を汚すんだもの。全く、あんな所でお茶を飲むなんて!!」
 「そりゃ、私も急に曲がったのも悪かったけど、何もあんな言い方しなくても」

 「お姉ちゃん、本なんかいつ買ったの?。全然読まないのに」

 「私だって読むわよ。ポタポタ最新刊・・・でもほんとは借り物。里見に借りたんだけどね」
 「だから余計に腹だたしくて、里見に謝れって言ったのに・・・」
 「なんて言ったと思う。『この本は俺の本だから、謝る必要なし』だなんて、なんて事を言い出すのかと思ったら・・・証拠があったの、裏表紙に山元の判子が押してあったの」
 「でも、私は里美に借りたから、説明しないといけないと思って、『一緒に釈明して』って言ったら。それもやだっていうのよ。全く」
 「それどころか、『何で君が僕の本を持っているのか。まず説明して然るべきじゃないのか』って・・・全くあんなやつの本だったら借りなかったのに・・・くやしいぃ」

 なんだなんだ。

 「簡単に言うと、山元さんの本をお姉ちゃんが里美さんから借りて、それを山元さんが汚したんだよね」
 「論点は、山元さんは自分の本だから謝る必要がないか否や。」
 「山元さんは里美さんに釈明する必要があるか否や。」
 「里美さんは山元さんの本を又貸ししたのは問題か否や、だね」
 「うぅん、少し違うかな。山元は最初二瓶君に貸したんだって、それが回りまわって里美の手に渡って、私が借りたって訳。ポタポタ人気あるからね」
 「豊も読みたかったんじゃなかったけ?。面白いわよ。」

 この日は話が脱線しかけて終わった。山元さんが取るべき行動は何なのであろう。全く持ってややこしい問題である。

 後日、やっと和孝が本を持ってきてくれた。しかし、その本は・・・かすかに黄緑色に染まっていた。何でも「お兄ちゃんが又貸しして、その先でお茶を派手にこぼされて、黄緑色に染まって返ってきた」との事である。確かに嘘はない・・・かも知れないが本当もない。山元さんは和孝にきちんと謝ったのだろうか。それともはぐらかしたのであろうか。真実を打ち明けるか否や、決めるのは僕か。

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