老人と神

 「あぁ、神よ。全知全能なる神よ。どうか姿を現してくだされ。この哀れな老人の願いを叶えてくだされ。あぁ神よ」
 「貴方が死んだなどと不埒な事を言う輩はもうおりません。もう誰もいないのです。もう誰もいない、そう誰もいない・・・。多分この私が最後の1人。この哀れな老人、貴方の忠実なる僕として長年お仕えしてきたこの私1人です」
 「貴方は以前も同じ事をしました。不埒な者どもを討ち滅ぼそうとして・・・ノーアという老人をお救いくだされたではございませんか。あぁ、神よ・・・」

 何百回も繰り返し唱える老人、そのうちに老人の心の中に芽生えた疑念、矛盾、そしてそれは決して晴れることはない。

 自分を除き人類を討ち滅ぼした力、これは当に神の力。神は未だ存在し続ける。自分は未だ生かされている。これもまた神の御心がなせる技、この不安定な状況の中ただ1人で生きる奇跡の力。神は未だ存在し続ける。しかし、神は現れない。問いかけても何も返ってこない。神は現れない。神は現れない。神は現れない。風の音すら聞こえなくなる。

 「神は死んだ」

 ひたすら願う我が前に現れない。もうその声は聞こえない。

 「神は死んだ」

 人類を討ち滅ぼす力、これは誰の力。

 こうして老人は死んだ。そして、神もまた消えてしまった。

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