コップの中の水

 今年の夏はおかしかった。雨ばかり降り、晴れた日などは数えるほど、いわゆる冷夏というやつだ。最新鋭のスーパーコンピューターを駆使した天気予報も大いなる自然の前には全くの無力であり、「信じる人は掬われる」という古の格言を思い起こされるほどであった。


 「首相、大変です。食料が半分しかありません。あんなに一杯買いだめしておいたのに。どうすればよいのでしょうか?」
 「そんなに慌てなさんな。まだ半分もあるじゃないか。大丈夫、大丈夫。ははは」
 秘書官は仕方がないので自分の食べる分を減らします。


 「首相、大変です。食料が四分の一になりました。どうしましょう。どうしましょう」
 「そんなに慌てなさんな。まだ四分の一もあるじゃないか。まだまだ大丈夫」
 秘書官はあきらめ顔で自分の食べる分をもっと減らします。


 「首相、大変です。食料が八分の一になりました。どうしましょう。どうしましょう」
 「全く君は、しょうがないな。まだまだ八分の一もあるじゃないか。でもまぁ、僕の食べる量を少し減らすかな。ダイエットにもなるしな。ははは」
 秘書官はどうにでもなれと自分の食べる分をうんと減らします。


 こうして秘書官はやせ衰えて寝込んでしまいました。首相はまだまだ元気いっぱいです。


 「半分もある」と思った首相と「半分しかない」としか思えなかった秘書官、太った首相と痩せた秘書官、プラス思考とマイナス思考、どちらが良いのだろうか。



『コップに水が半分入っている。それを見て「半分もある」 と思える人、「半分しかない」と思う人、結局どちらも単なる人間なのだ』 by@

http://www.hatena.ne.jp/1066780568