宇宙がもたらすもの

 「博士、大変です。大陸から弾道ミサイルが発射されました」と政府からの第一報を知らせる助手。
 (まだまだだな、研究者たる者、この程度のことで慌ててはいけないのだよ)
 「着弾予想地点は不明、計算が追いつきません」
 (そういえば世界最初の電子式コンピュータは弾道計算用に開発されたのじゃなかったかな)


政府公式発表:
 「本日、8月31日午前12時頃、大陸から弾道ミサイルが発射されました。ミサイルは諸島を飛び超え、洋上に落下した模様です。現在、事実確認を行っております。政府といたしましては不測の事態に憂慮し大陸に厳重抗議すると共に国民皆様は不必要に騒がずに冷静な対応をお願いする次第です」


大陸政府公式報道:
 「我が国初の無人宇宙ロケットは打ち上げに成功した。これも我が人民の結束の証であり、宇宙史に残る輝かしい成果である事を報告したい。」

 「首相、大陸からは何と?」
 「洋上に落下したのは切り離したエンジンだとよ。」
 「それを信じるのですか?」
 「何を言っているのかね。出任せもいいとこだ。一体、大陸は何を企んでいるのか。今回は実験弾だから問題ないとでも言うのか。本来なら戦争行為だよ。攻め込めないことを良いことに、これ以上の好き勝手には・・・。なぁ博士」
 (あんなちゃちなミサイル。私の研究が完成した暁には一挙に旧式のスクラップだ。でも・・・。)




 「博士、大陸から宇宙ロケットが発射されました」と今度は冷静に伝える助手。
 (何を言っているのだ。ミサイルだろうに。間違えおって。)
 「地球を14周した後に砂漠地帯に着陸の予定とか・・・」
 (周回するのは攪乱するためか。騙されんぞ。)


政府公式発表:
 「感動した」


大陸政府公式報道:
 「我が国初の有人宇宙ロケットは打ち上げに成功した。これも我が人民の結束の証であり、宇宙史に残る輝かしい成果である事を報告したい。」

 「首相、大陸にしてやられましたな」
 「何を言っているのかね。競争しているのではないのだよ」
 「これからどうします?」
 「独自開発、これあるのみ。なぁ博士」
 (あんな旧世代の打ち上げ技術。私の研究は最先端なのだよ。もう少し予算があれば・・・なぁ。)



 宇宙、それは今尚残る神秘の一つ。宇宙、それは幼き日々への永遠なる憧憬。若さ故の無限の可能性、それにも似た輝かしい未来が宇宙にはある。そう信じられる時代、そこにいた。

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