婚姻試験

 とある山村に大層美しい女性が住んでおりました。その村の男どもは無論のこと、近隣の村々にもその噂が知れ渡っているほどでした。当然の事ながら、言い寄る者は数知れず、中でも求婚するほどに熱心な殿方が5人もおられました。何という贅沢な・・・いいえ由々しき問題なのです。

 こんな狭い村社会で諍いの種をいつまでも放置しておくことは、許されません。そこで村の長とその女性が相談して条件を出しました。古くからの「なよ竹のお姫様」の伝承になぞらえて、でも燕の子安貝やら蓬莱の玉の枝やらが欲しいとは申せません。

 その条件はただ一つ、塩と米とを分ける事です。考えても見てください。山村で生きるのに重要な塩が米びつの中に混ざってしまったのです。その問題をなくするのが条件です。さて、どんな知恵者が選ばれるのでしょう。一番有効な回答を女性が判定することになっています。

 ざるを使って大きさで分けようとした竜次、水に溶かして米を取り出し塩水から再び塩を作ろうとした正治、砂金取りの要領で比重で分けようとした文彦、籾殻を飛ばす見たいに風で分けようとした正臣、彼らの方法は一長一短でなかなかうまくありません。一部を分離することはなんとかできたとしても、とてもとても全部をそのままの状態で分けるなどできません。

 ざるを使う方法は目詰まりするは時間がかかるはで、完全には塩を回収できません。水に溶かせば・・・しかし米が水を吸って使い物にならなくなるは、塩作りの技術がないはでこれもダメ。米塩は傘に置いて振り回してもうまく分かれず水を入れたら・・・同じ事です。では風使いはといえば、いらないものを吹き飛ばすならいざ知らず塩が飛び散ってしまいムリでした。

 最後に登場したのが、文左衛門です。彼はこの村の出身ではなく、遠くの街の塩商人です。彼は仕入れ金を使い必要量の米を買い、手持ちの塩を差し出しました。なんて小ずるいのでしょう。問題を無視するなんて、この条件を何だと考えているのでしょう。でも、村一番の彼女は微笑みました。村の長も嬉しそうです。

 結局の所、何が採用の決め手になったのでしょう。村一番の女性と村の長との間に交わされた相談は誰も知りません。塩が無くなれば村が窮乏に貧するのは判るのですが・・・。それにしても村社会は不自由なものです。

 ・・・、果たしてそうなのでしょうか?。真実はどこにあるのでしょう。

http://www.hatena.ne.jp/1069248099